米ワシントン大学セントルイス校のGang Wu教授らのチームが、燃料電池の触媒に使う白金(プラチナ)を減らしながら、耐久性と活性を両立させる手法を発表した。論文は2026年8月6日、Nature Nanotechnology に掲載された(DOI: 10.1038/s41565-026-02244-8)。ブルックヘブン国立研究所、ローレンス・バークレー国立研究所、ノースイースタン大学、ピッツバーグ大学との共同研究である。
二律背反をどう外したか
燃料電池の触媒では、白金とコバルトの原子がきれいに並んだ「規則構造」をつくるほど性能が上がる。ところが原子を整然と並べるには1,000℃近い高温が必要になる。
一方で、触媒の粒子は小さいほど表面積を稼げて効率が良い。だが高温にさらすと粒子どうしがくっついて肥大化してしまう。規則構造を取るか、微粒子を保つか——これまではどちらかを諦めるしかなかった。
チームが用意したのは、放射状のナノ細孔が規則正しく並んだ中空のカーボン球だった。この細孔の一本一本に粒子を閉じ込めることで、1,000℃まで加熱しても粒子は5ナノメートル未満のまま保たれる。触媒そのものではなく、触媒を入れる「容器」の側を設計し直した形である。
成果
厳しい電圧サイクル試験を15万回かけた後も、性能の85%を維持した。実運転に換算しておよそ25,000時間に相当するという。
米国ではデータセンターの電力消費が2030年に発電量の9%に達する可能性が指摘されている。燃料電池による自家発電が現実的な選択肢になれば、送電網の負担を下げられる。白金は高価で供給も限られるため、使用量を減らせるかどうかが普及の分かれ目になっていた。
日本のものづくりへの示唆
町工場の目線で拾うべきは、高価な材料を減らす方法が「材料そのものを安いものに置き換える」だけではない、という点だろう。ここで変えたのは白金ではなく、白金を置く場所の形である。
高い材料が逃げたり、無駄になったりする経路を先に塞げば、投入量は自然に減る。めっき液の持ち出し、接着剤のはみ出し、塗料のオーバースプレー、切削油のミスト。工場の中にも、材料そのものではなく「入れ物と経路」を変えれば減らせるコスト(C)は少なくない。
材料費の見直しというと、まず安い代替品を探しにいきがちである。だがその前に、今の材料がどこで無駄になっているかを図面に描いてみる。この研究が示しているのは、そういう順番の話でもある。
出典
- Carbon nanostructure improves fuel-cell catalyst durability while reducing platinum use(Phys.org・2026年8月)
- Nature Nanotechnology(2026年8月6日、DOI: 10.1038/s41565-026-02244-8)/ワシントン大学セントルイス校
※原文は英語です。要旨を日本語で紹介しました。