広島大学大学院先進理工系科学研究科の研究チームが、超硬合金(タングステンカーバイド・コバルト、WC-Co)を3Dプリントで造形する手法を発表した。論文は学術誌 International Journal of Refractory Metals and Hard Materials(第136巻・論文番号107624)に2026年8月4日付で掲載されている。
なぜ超硬は3Dプリントできなかったのか
超硬合金は、切削工具やドリル、金型、建設機械の刃先に使われる、産業界で最も硬い部類の材料である。ダイヤモンドやサファイアのような超硬質材料には及ばないものの、実際に工場で日常的に使われる材料としては最上位に位置する。
ところが、この材料は3Dプリントとの相性が悪かった。金属3Dプリントの多くはレーザーで材料を完全に溶かして積み上げていく。だがタングステンカーバイドを溶かしきると内部組織が変わってしまい、硬さという最大の取り柄が失われてしまう。硬い材料ほど、溶かした瞬間に硬くなくなるという厄介な性質を抱えていた。
「完全には溶かさない」という選択
研究チームが採ったのは、ホットワイヤレーザーと呼ばれる方法である。あらかじめ加熱したフィラーワイヤにレーザーを当て、材料を完全に溶融させるのではなく「軟化」させた状態で盛っていく。筆頭著者の丸本敬太氏は、タングステンカーバイドを完全に溶かすと内部構造が変わり、価値ある特性が損なわれると説明している。
結果として得られた試料のビッカース硬さは1400HVを超えた。溶かさずに積むことで、材料が本来もつ組織をそのまま残したまま造形できたことになる。
日本のものづくりへの示唆
この研究の面白さは、新しい素材を作ったのではないところにある。既存の材料の「扱い方」を変えただけで壁を越えた。溶かすのが当たり前という前提を疑い、必要な温度まであえて上げないという引き算の設計である。
実務的な意味も小さくない。超硬は高価で、しかも削り出しで作れば大半が切粉になって捨てられる。積層方式なら必要な場所にだけ盛ることができる。摩耗した工具や金型の刃先だけを盛り直す、母材は安価な鋼にして刃先だけ超硬にする——といった使い方が現実味を帯びてくる。
装置が中小の工場に普及するのはまだ先の話である。ただ、自社の消耗品費に占める超硬工具の比率が高いなら、この技術は工具費というコスト(C)を「買う」から「直す」に変える可能性を持っている。研究段階の話として、動向を追っておく価値はある。
出典
- Scientists just 3D printed one of the hardest metals on Earth(ScienceDaily・2026年8月1日/広島大学の発表による)
- International Journal of Refractory Metals and Hard Materials, Vol.136, 107624(2026年8月4日掲載)
※原文は英語です。要旨を日本語で紹介しました。