シンガポール国立大学(機能的知的材料研究所)と英サウサンプトン大学の共同研究チームが2026年7月14日、原子1層レベルの薄い材料を積み重ねる工程で、粘着テープ代わりに天然鉱物の雲母(マスコバイト・白雲母)を使う手法を発表した。論文は『Nature Communications』に掲載されている。
何が問題だったのか
グラフェンに代表される二次元材料は、厚さが原子1個分しかない。これを何層も狙いどおりに重ねると、単体では出せない電気的・光学的な性質が現れる。次世代の半導体やセンサーの材料として期待される分野である。
ところが、この「重ねる」工程が難物だった。従来はポリマー系の粘着膜で薄膜を拾い上げ、目的の場所へ転写する。要は高級なセロテープである。この方法では、ポリマーの微細な残りかすが界面に残り、それが汚れとなって電子デバイスの性能を落としてしまう。作れば作るほど、性能のばらつきが残る工程だった。
雲母に替えたら、界面がきれいになった
研究チームが着目したのは、雲母が持つ性質である。雲母は層状の鉱物で、剥がすと原子レベルで平らな面が出る。しかも天然に大量に産出し、安い。この「もともと平らな面」を転写の土台に使うことで、ポリマー残渣のない清浄な界面が得られ、原子層を正確に積み重ねられるようになった。研究チームは、従来より清浄かつ安価な組み立てが可能になるとしている。
画期的なのは、新しい高分子を合成したのでも、真空装置を増やしたのでもない点だ。工程から異物の発生源そのものを取り除いた。汚れを落とす方法を磨くのではなく、汚れないやり方に替えた——という発想の転換である。
日本のものづくりへの示唆
これは町工場の現場でもそのまま通じる話ではないだろうか。加工後に洗浄工程を足す、検査で弾く、といった「後始末を強化する」対策は分かりやすい。だが本当に効くのは、そもそも異物が出ない治具・材料・段取りに替えることのほうだ。粘着材を使う保護テープ、離型剤、養生材——現場で当たり前に使っている副資材が、実は不良の発生源になっていないか。
加えて、答えが「天然鉱物」だったという点も見逃せない。最先端の課題に対して、高価な新素材ではなく、安価でありふれた材料が最適解になることがある。雲母は日本でも古くから電気絶縁材として使われてきた素材である。手元にある材料の性質を、別の用途の目で見直してみる価値はある。
出典
原文は英語です。要旨を日本語で紹介しました。