何が発明されたか:鉛フリー圧電セラミックスの「中身」を熱で作り分ける
英マンチェスター大学のデビッド・ホール博士らの国際チームが、鉛を含まないビスマスフェライト・チタン酸バリウム系(BiFeO3-BaTiO3)セラミックスの内部に、ナノサイズの組成の異なる領域を網目状に作り込む手法を発表した。論文は2026年10月2日付「Science Advances」に掲載され、大学が10月5日に発表した。チームはこれを「バルク強誘電体ヘテロ構造」と呼ぶ。核心は熱処理で、焼き上げたセラミックスに適切な温度をかけると、内部でビスマスの多い領域とバリウムの多い領域に元素が自然に分かれる。結晶格子はつながったまま組成だけが変わり、その境界が材料内部に無数の「界面」として張り巡らされ、局所的な電場やひずみを生む。
なぜ画期的か:薄膜でしかできなかったことを「塊」で実現した
組成の異なる層を積み重ねて界面の効果を引き出す手法は薄膜では知られていたが、一層ずつ成膜する必要があり、厚みのあるセンサーやアクチュエーター部品には向かなかった。今回は、ふつうに焼いた塊に熱処理を加えるだけで同じ効果を得る。製造工程を増やさずに性能を変えられる点が工業的に大きい。成果として、圧電性が失われるキュリー温度は824℃に達し元の材料より350℃以上高くなった。内部バイアス電場は8MV/mを超え、従来のバルク強誘電体より大幅に高いという。なお圧電定数d33の値や鉛系材料PZTとの直接比較は発表資料に含まれていない。
日本のものづくりへの示唆
圧電セラミックスは超音波センサーや燃料噴射アクチュエーター、工作機械の振動検知など町工場の設備にも多く使われる。主流のPZTは鉛を含み、欧州RoHS規制では「代替がない」ことを理由に例外扱いが続いてきた。鉛フリーで高温に耐える材料が実用化すれば、この例外はいつ外れてもおかしくない。もう一つの示唆は「後工程で性能を作る」考え方だ。材料を変えずに熱処理条件で内部構造を作り分ける手法は、鋼の焼き入れ・焼き戻しと発想が近い。どの温度でどれだけ保持すれば狙いの特性が出るのか、その「レシピ」を握る工程こそ、熱処理のノウハウを持つ日本の町工場が入り込める余地である。
出典
- EurekAlert!(マンチェスター大学発表)「Heat-induced nanostructures open new design route for lead-free piezoelectric materials」(2026年10月5日)
- The American Ceramic Society「Other materials stories that may be of interest for October 7, 2026」
- 論文:Science Advances「Bulk Ferroelectric Heterostructures」(2026年10月2日、DOI: 10.1126/sciadv.aef9861)。原文は英語。要旨を日本語で紹介しました。