京都大学大学院工学研究科の劉遠宏特定研究員、高斯准教授、辻伸泰教授らの研究グループは、室温で約140%も均一に伸び、しかも引張強さが約900MPaある鋼を見いだした。成果は2026年9月1日に学術誌『Materials Today』に掲載され、京都大学工学研究科が10月に紹介している。
何が発見されたのか
金属を引っ張ると、ある程度伸びたところで一部分だけが細くなる「くびれ」が起き、そこから破断する。くびれが始まるまでの伸び(一様伸び)は、一般的な金属材料で20〜40%程度、先進的な鉄鋼材料でも70%程度とされる。今回の鋼は、その約2倍にあたる約140%の一様伸びを示した。
鍵は、金属が形を変えるときの「変形の仕組み」を三つ、順番に働かせたことにある。最初は通常の金属と同じ「転位すべり」(原子の並びが少しずつずれる変形)。次に「変形双晶」(結晶の一部が鏡写しのように向きを変える変形)。最後に「変形誘起マルテンサイト変態」(変形をきっかけに結晶構造そのものが硬いものに変わる現象)である。
なぜ画期的か:硬くなる力を「リレー」する
金属は変形すると硬くなる(加工硬化)。この硬くなる力が続いている間は、弱いところだけが伸びることが防がれ、全体が均一に伸びる。ところが一つの仕組みだけでは、いずれ加工硬化が尽きてくびれが始まる。研究グループは、一つ目の仕組みが息切れするころに二つ目が、二つ目が尽きるころに三つ目が働くよう、炭素の添加量で各仕組みが働き始めるタイミングを調整した。いわば加工硬化のリレーである。強さを上げると伸びが落ちるという長年のトレードオフへの一つの答えである。
想定する応用先は自動車・建築・航空機などの構造材料だ。合金組成や量産性、コストは今回の発表からは明らかでない。
ものづくりへのヒント
面白いのは、新しい元素ではなく「どの順番で、いつ働かせるか」という時間の設計で性能を引き出した点だ。プレスや曲げ、深絞りの現場では、材料がどこで割れるかが歩留まりと品質(Q)を左右する。延性の大きい材料が実用化されれば、工程数を減らした一体成形や、より厳しい形状への挑戦が可能になる。
もう一つの示唆は、問題を「一つの手段の限界」と捉えずに、限界が来る前に次の手段へ引き継ぐという発想だ。加工条件や熱処理、工程の順番にも、組み合わせとタイミング次第で引き出せる余地がまだあるかもしれない。
出典
- 室温で140%も伸びる超延性鋼―三つの変形機構を順に活用―(京都大学大学院工学研究科・2026年10月)
- 論文:Materials Today 100 (2026) 103497(DOI: 10.1016/j.mattod.2026.103497)