東京科学大学の研究チームが、海水淡水化プラントから出る濃い塩水(ブライン)を、熱した液体のスズに直接触れさせることで、淡水をつくりながらマグネシウムを取り出す方法の研究成果を発表した。科学技術ニュースサイトTech Xploreが2026年10月1日に報じたもので、論文は学術誌Desalinationに掲載された。研究は同大学ゼロカーボンエネルギー研究所の近藤正聡准教授と、大学院生の堀川虎之介氏らによる。
何が発見・開発されたか
海水淡水化では、真水を取り出したあとに塩分が濃くなった排水「ブライン」が必ず出る。研究チームが2025年4月に発表した原理はこうだ。300℃前後に熱した液体スズ(スズの融点は232℃)の表面にブラインを吹きつけると、水分は蒸発して淡水として回収でき、マグネシウムやナトリウムなどの金属元素はスズの中に溶け込む。スズが冷えると、溶け込んでいた元素が析出して分離できる。
今回の論文では、ここからマグネシウムを「資源」として取り出すところまで進めた。約8gのスズにブラインを毎分0.1mLの速さで供給し、573〜673K(約300〜400℃)でスズに吸収させる。その後、真空中で973K(約700℃)まで加熱して塩素や硫黄などの成分を飛ばし、冷却時の析出を利用してマグネシウムを濃縮した。報道によれば、マグネシウムの濃度は最大で約280倍に高まり、回収率は99%を超えたという。太陽熱で加熱する直径15mの集光装置を想定した試算では、1日あたり淡水970kgとマグネシウム2.8kgが得られるとしている。
なぜ画期的か
ブラインからの資源回収はこれまでもあったが、多くは薬品を大量に加えるか、電気を大量に使う方法で、新たな廃棄物も出る。この方法は「熱した金属に当てる」だけで、水を回収する工程と金属を集める工程が一つの装置の中で同時に進む。熱源に太陽熱を使えば、電力にも薬品にも頼らずに済む可能性がある。
マグネシウムは自動車・航空機の軽量化材料やアルミ合金の添加元素として欠かせない一方、供給の多くを海外に頼っている。「掘らずに、すでに出ている排水から取る」という考え方は、資源の少ない国にとって意味が大きい。ただし研究チーム自身も、連続運転できる装置の開発、長期間の安定性、装置材料が液体スズに耐えられるか、回収物の精製、エネルギー収支と経済性の検証を今後の課題に挙げており、実用化はまだ先である。
日本のものづくりへの示唆
この研究から得られる示唆は、「廃液は処理するものではなく、濃縮済みの原料かもしれない」という視点だ。めっき液、エッチング液、研削液、洗浄排水——町工場でも、処理費を払って出している液体は多い。その中に有価な金属が含まれているなら、問題は「どう捨てるか」ではなく「どう取り出すか」に変わる。
もう一つは、溶けた金属を「道具」として使う発想である。液体スズは、ある温度では物をよく溶かし、冷えると吐き出す。温度による溶けやすさの違いを分離に使う、という原理は、はんだや鋳造で溶融金属を日常的に扱う日本の現場にとって、理解しやすく、応用の芽を探しやすいものだろう。今週あわせて紹介した卵殻のマグネシウム合金の話と合わせて読むと、「廃棄物から金属材料をつくる」流れが、世界の研究現場で同時多発的に動いていることがわかる。
出典
- Mining without digging: Liquid metal tin turns desalination brine into a magnesium resource(Tech Xplore・2026年10月1日)
- 東京科学大、液体金属スズを用いた海水淡水化・金属資源回収技術を開発(マイナビニュース TECH+・2025年4月25日)
- 論文:Desalination誌(東京科学大学 堀川虎之介、近藤正聡ほか)
- Tech Xploreの原文は英語。要旨を日本語で紹介しました。