大阪大学産業科学研究所を含む研究グループが2026年8月5日、バラバラな向きに散らばったカーボンナノチューブ(CNT)の膜に、偏光を制御した超短パルスレーザーを当てることで、膜の狙った場所だけを、狙った方向にそろえる技術を開発したと発表した。論文は2026年8月1日、Nature Communications オンライン版に掲載されている。
何が難しかったか——「そろえる」ことはできても「部分的に」できなかった
カーボンナノチューブは、向きがそろっているときに本領を発揮する材料である。電気も熱も、チューブの軸方向にはよく流れるが、横方向にはそうでもない。だから性能を出すには配向制御が要る。
従来も配向させる方法はあった。ただし、制御できる単位がミリメートルスケールに留まり、一枚の膜の中の、ここだけを縦向き、隣は横向きといった作り分けができなかった。デバイスとして使うには、膜のどこに何を配置するかを細かく決められなければならない。ここが実用化の壁になっていた。
新手法——並べるのではなく、向きの違うものを「飛ばす」
研究グループが使ったのは、CNTが持つ偏光特性である。CNTは、自分の軸と平行な向きの偏光の光をよく吸収し、垂直な向きの光はあまり吸収しない。
そこで、偏光の向きを制御した超短パルスレーザー(数十ピコ秒以下)を照射する。すると、レーザーの偏光と非垂直な向きのCNT——つまりよく光を吸うCNTだけ——が選択的に蒸発して消える。残るのは、レーザーに対して垂直な向きのCNTである。そろえるのではなく、そろっていないものを選んで除くという引き算の発想だ。
パルスが数十ピコ秒以下と極端に短いため、熱が周囲に逃げる前に加工が終わり、膜へのダメージも最小限に抑えられる。
結果として得られたのは、サブマイクロスケール(1000分の1ミリメートル以下)の空間解像度と、2Dネマティック秩序パラメーター0.93(完全にそろった状態を1とする指標)。偏光方向による吸光度の比は24.7倍に達した。研究グループは、テラヘルツ帯の偏光イメージセンサーや、次世代の高速・低消費電力ロジックデバイスへの応用を見込んでいる。
研究は東京理科大学の西原大志准教授、産業技術総合研究所センシング技術研究部門の鈴木大地主任研究員らを中心に、大阪大学産業科学研究所、理化学研究所光量子工学研究センターが参加した共同研究である。
日本のものづくりへの示唆——「そろえる」より「そろわないものを除く」
この研究の発想は、加工の現場に置き換えると理解しやすい。全部を正しい向きに動かすのは難しいが、間違った向きのものを見つけて取り除くのは、比較的やさしい。
選別・検査の工程でも同じことが言える。すべての部品を規格の中心値に寄せようとすると工程能力の話になり、設備と時間がかかる。一方、外れているものだけを確実に弾く仕組みは、はるかに安く作れることがある。品質(Q)の作り方には、作り込む道と、除く道の二通りがある。
もう一つ注目したいのは、加工したい対象と、加工しない対象を、材料自身の性質で区別させている点だ。CNTの向きの違いが「光をよく吸う/吸わない」という差になり、その差がそのまま加工の可否を決めている。位置を測って狙いを定めているのではない。材料が勝手に選ばれている。
レーザー加工機を持つ工場であれば、同じ発想は応用が利く。波長や偏光を変えることで、複合材の中の特定の相だけに作用させる、コーティングだけを剥がして母材を傷めない、といった「選択的に効かせる」加工である。出力を上げて全部を削る方向ばかりでなく、条件を絞って一部だけに効かせる方向にも、まだ余地がある。
出典
- カーボンナノチューブの配向を狙った場所だけ調整する新たな光プロセスを開発(大阪大学 産業科学研究所、2026年8月5日)
- 論文:Nature Communications オンライン版(2026年8月1日公開)