単独では作れない素材を、結晶の「中」から取り出す
東北大学や量子科学技術研究開発機構(QST)、理化学研究所などの共同研究グループが2026年7月、単独では不安定で作れなかった「ホウ素版グラフェン(ボロフェン)」を、安定した3次元結晶の表面に実現したと発表した。成果は米科学誌サイエンス・アドバンシズに掲載された。
何が発見されたのか
グラフェンは、炭素原子が蜂の巣状に並んだ厚さ原子1個のシートで、優れた電気特性から次世代材料として知られる。そのホウ素版が「ボロフェン」だ。だがホウ素は反応性が高く、単体では不安定ですぐ壊れてしまうため、狙った構造を安定して作るのが難しかった。研究グループは、ホウ素を含む安定な3次元結晶(LaRh₃B₂)を用意し、その内部から実質的にボロフェンに相当する原子の層を結晶表面に「取り出す」という発想で、この壁を越えた。
なぜ画期的か
不安定な2次元物質を、あえて安定な3次元結晶の一部として設計し、その表面に引き出す——この考え方は、ボロフェンに限らず「単体では作れない材料」を得るための一般的な設計手法になり得る。研究では、電子が特定のエネルギーに集まりやすい特殊な電子構造や、電子の分布が自発的に一方向へ偏る現象も観測され、次世代の量子材料開発を加速すると期待されている。
日本のものづくりへの示唆
「目的の素材そのものを直接作ろうとせず、安定した母体を設計して、そこから取り出す」という発想の転換は、材料開発だけの話ではない。扱いにくい対象を、扱いやすい仕組みの中に一度組み込んでから引き出す——これは加工や治具、工程設計にも通じる考え方だ。そして、こうした基礎研究の最前線が、日本の複数の大学・研究機関の連携から生まれている点も心強い。素材を制する国が、ものづくりの上流を制する。