炭素繊維が高いのは、焼く前の材料——前駆体が高いからである。現在ほぼ一択となっているPAN(ポリアクリロニトリル)は石油由来で、炭素繊維の総製造コストの最大50パーセントを占める。だから炭素繊維は航空機やレーシングカーのような高付加価値品にしか使えず、一般の乗用車には広がらなかった。
代わりの前駆体として長年候補に挙がってきたのが、リグニンである。製紙・パルプ工程やバイオリファイナリーから大量に出る廃棄物で、ほぼタダに近い。ただし、リグニンから作った炭素繊維は弱かった。分子がきれいに並ばないからだ。
何が開発されたか
米ワシントン大学セントルイス校のJoshua Yuan教授と第一著者のWeiwei Li博士研究員らのチームが、リグニンを使いながら自動車業界の要求水準を満たす炭素繊維を作る製造プロセスを開発し、2026年9月18日に発表した。論文は学術誌『Matter』に掲載されている(DOI: 10.1016/j.matt.2026.103001)。
成果は次のとおりである。
- 石油由来PANの使用量を50パーセント削減
- 総製造コストを25パーセント削減
- 得られた繊維は引張強度・弾性率の両面で自動車業界の基準を満たす
なぜ画期的か——弱い材料を強くするのではなく、並べる「型」を入れた
従来のリグニン系炭素繊維の研究は、リグニンそのものを改質して強くする方向が主流だった。今回のチームが取ったのは別の道である。
単層カーボンナノチューブを「テンプレート(型)」として混ぜた。ナノチューブがリグニンやPANとよく混ざる状態を作り、その細長い骨格に沿ってリグニン分子が配向する。そのうえで前駆体溶液を湿式紡糸で押し出し、張力をかけながら熱処理し、最適化した条件で炭化する。分子を並べる仕事を、材料の改質ではなく「並ぶ先を用意する」ことで解いたわけだ。
ここで効いた条件は3つそろっている。安くて大量にある廃棄物(リグニン)、それを整列させる微量の添加物(ナノチューブ)、そして整列を崩さずに固める工程(張力をかけた熱処理と炭化)。どれか1つでも欠ければ、従来どおり「安いが弱い繊維」になる。
日本のものづくりへの示唆
示唆は2つある。
1つめは、材料費を下げる方法は「安い材料に替える」だけではないということ。安い材料は、たいてい何かが足りないから安い。その足りない性能を材料自身に求めるとコストが跳ね返るが、「性能が出る配置を外から与える」という切り口なら、少量の添加物と工程条件の変更で済むことがある。自社で使っている高い材料について、「なぜ高いのか」「その機能を工程側で肩代わりできないか」と分解してみる価値はある。
2つめは、廃棄物の側から製品を設計する視点である。リグニンは製紙業界にとって長年、処理コストのかかる厄介者だった。それが自動車部品の原料になるなら、収支は「処理費用」から「原料販売」へ反転する。自社や近隣の工場から毎日出ている切粉、端材、廃液、廃熱のうち、「同じ品質で、まとまった量が、安定して出ている」ものはないか。この3条件がそろっている廃棄物は、外から見れば十分に「原料」である。
なお、炭素繊維が自動車の量産車に広く入ってくれば、加工・接合・検査の要求も変わる。金属とは削り方も締め方も違う材料が量産ラインに乗るということでもあり、部品加工を手がける事業者にとっては中期の話題として押さえておきたい。
出典
- Waste from paper production could help make stronger, lower-carbon car materials(Tech Xplore、2026年9月18日)
- 論文:Weiwei Li ほか、『Matter』(2026)DOI: 10.1016/j.matt.2026.103001
原文は英語です。要旨を日本語で紹介しました。