金属を溶かして急冷すると、原子が結晶に並びきる前に固まる。こうしてできた「金属ガラス」は、鉄系のものだと磁気的な損失が非常に小さく、モーターや変圧器の鉄芯(コア)にすれば電気を熱として捨てる量を減らせる。理屈としては数十年前から知られていた。
問題は、その形にできなかったことである。
何が開発されたか
ドイツのザールラント大学(UdS)を中心とする欧州プロジェクト「AM2SoftMag」が、鉄・シリコン・ホウ素・ニオブ・ニッケルからなる鉄系金属ガラスを、3Dプリント(レーザー粉末床溶融結合=LPBF)で完全なアモルファス状態のまま造形することに成功したと2026年9月10日に発表した。スペインのIMDEA Materialsなどが参画している。
数字は次のとおりである。
- 相対密度92パーセント超で、結晶化せずに造形
- 結晶化せずに保てる厚み(臨界厚さ)は最大1ミリメートル。市販の同種材料の約10倍
- 保磁力44 A/m(アンペア毎メートル)
- コバルト、レアアースを含まない組成
なぜ画期的か——「結晶化させない」ではなく「熱の当て方」を設計した
鉄系金属ガラスを3Dプリントしようとすると、これまで必ず同じ壁にぶつかった。LPBFはレーザーで粉末を1層ずつ溶かして積む方式なので、下の層は上の層を造形するたびに何度も加熱される。この繰り返しの熱で、せっかくアモルファスだった部分が徐々に結晶化してしまい、自慢の磁気特性が失われる。材料の組成をいくら工夫しても、プロセスが材料を壊してしまうわけだ。
研究チームがとった解は、材料側ではなくレーザー側だった。2本のレーザーで走査し、その間に制御された時間差(ディレイ)を置く。1回で一気に溶かし固めるのではなく、「いつ、どれだけ間隔を空けて次の熱を入れるか」を設計変数にしたのである。結晶が成長するには時間がかかる。その時間を与えないように熱履歴を刻めば、同じ材料・同じ装置でもアモルファスのまま積み上がる。
さらに、コバルトとレアアースを使わない組成で成立している点も大きい。この2つは価格変動と供給リスクがともに大きい元素で、モーター材料の設計では常に足かせになってきた。
日本のものづくりへの示唆
この事例から持ち帰れるのは、材料の話というより「不良の原因を材料のせいにする前に、熱の入れ方を変数として持っているか」という問いだと思う。
溶接の割れ、熱処理の歪み、樹脂成形のヒケ、はんだのボイド。現場で「この材料は難しい」と言われている工程の多くは、実際には温度そのものより温度が上下する順番と間隔で結果が変わる。ところが記録として残っているのは設定温度と時間だけ、というケースが多い。パス間の待ち時間、2回目を当てるまでの間隔、冷却の開始タイミング——こうした「間」を意図的に振って試したデータが社内にあるかどうかで、打てる手の数は変わってくる。
加えて、レアアース・コバルトを使わない磁性材料が実用域に入りつつあることは、モーター部品を手がける事業者にとって中期の設計変更要因になる。材料が変われば、加工条件も検査基準も変わる。取引先の材料切り替えの話が出たときに「うちでは削ったことがない」とならないよう、動向は追っておきたい。
出典
原文は英語です。要旨を日本語で紹介しました。