物質・材料研究機構(NIMS)は2026年9月10日、溶液を塗って乾かすだけで形成できる多孔質の層を「アンカー」として使い、本来はくっつきにくい異種材料どうしを強固に接合する技術を開発したと発表した。成果は同日、学術誌Smallのオンライン版に掲載された。
何が開発されたか
開発されたのは、PPA(Printable Porous Anchor=印刷できる多孔質アンカー)と名づけられた接着層である。「粘弾性相分離」という物理現象を利用し、溶液を塗って乾かすだけで、ナノメートルからマイクロメートルサイズの孔(あな)を持つ網目状の層ができる。
この層の働き方が変わっている。片側の素材(実験ではガラス)とは化学的な親和性で結合し、もう片側の素材(柔らかい高分子)とは、細かな孔に入り込ませて物理的にかみ合わせる。一枚の接着層の中で役割を分けたわけだ。この設計により、ガラスと接着しにくい柔らかな高分子の組み合わせで、7MPa(メガパスカル)を超える接合強度を確認した。構造を持った層を挟むことで、垂直引張強度は約2倍に向上したという。
なぜ画期的か
従来、性質の違う素材をつなぐには二つの道しかなかった。ひとつは、素材の組み合わせごとに両方になじむ接着剤を設計・開発すること。もうひとつは、機械加工や化学薬品で表面を削って凹凸をつくり、食いつきを良くすることである。前者は組み合わせが増えるたびに開発をやり直す必要があり、後者は工程が複雑になるうえ、加工残渣やエネルギー消費、環境負荷という課題を抱えていた。
PPAは、この「素材の相性を良くする」という発想そのものを外している。相性が悪いなら、間に挟む層のほうに構造を持たせればいい、という考え方だ。しかも塗って乾かすだけで、削る工程も専用接着剤の開発もいらない。研究チームは現在、放熱性や電気的接続を確保するための導電性付与や、高耐熱性素材を用いた多孔アンカー層の開発を進めている。
日本のものづくりへの示唆
自動車の軽量化、フレキシブル電子デバイス、ソフトロボットと、硬い素材と柔らかい素材を組み合わせる「マルチマテリアル化」の要求は現場に降りてきている。金属と樹脂、ガラスとゴム——こうした組み合わせで「接着剤メーカーに相談したが、この組み合わせ用のものはない」と止まった経験は珍しくないはずだ。
示唆は二つある。ひとつは、接合の問題を材料選定の問題としてだけ考えない、という視点。界面に構造を持ち込めば、材料の相性表の外側に選択肢が生まれる。もうひとつは、表面処理の工程を減らせる可能性があること。ブラストやプライマー処理を前提にしている工程は、品質(Q)のばらつきの発生源であり、残渣管理の手間でもある。塗って乾かすだけで済む方式が実用化されれば、そこは丸ごと置き換わる。実用化にはまだ時間がかかるが、「相性が悪いからできない」という制約の置き方は、今日から疑ってよい。
出典
- 塗って乾かすだけで異種材料を強固に繋ぐ「多孔質アンカー」の開発(物質・材料研究機構/2026年9月10日)
- 論文:Shunto Arai, “Topological Structuring of Adhesive Layers to Enhance Resistance Against Interfacial Fracture”, Small, DOI: 10.1002/smll.75296(2026年9月10日掲載)