コーティングは厚いほうが丈夫で、性能も出る。多くの現場でそう考えられている。韓国のKAIST(韓国科学技術院)の研究チームは、その逆を試した。ポリマー膜を極限まで薄くしていったところ、膜の内部にナノサイズの凝集体ができた。従来なら「膜が均一に張れていない=欠陥」と判定されるものである。ところがその欠陥が、水滴の生まれる場所として働き、伝熱性能を大きく引き上げた。
何が起きたのか
研究は、KAIST機械工学科のYoungsuk Nam教授と生命化学工学科のSung Gap Im教授の共同チームによるもので、成果は2026年7月16日にNature Communications誌に掲載された。
チームは、iCVD(開始剤化学気相成長法)という手法で銅管の表面に極薄のポリマー膜を成膜した。気体の原料を表面で反応させて薄い膜をつくる方法である。膜厚を下げていくと膜の形態が変わり、密なナノスケールの凝集体が現れる。この凝集体が、水蒸気が凝縮を始める「核」になった。薄い膜では、厚い膜のおよそ3倍の数の水滴が生まれたという。
さらにチームは熱処理を加えて、水滴と表面の密着を弱めた。水滴は早く離脱し、そのぶん新しい表面が次々と露出する。結果として熱伝達率は約88 kW・m⁻²・K⁻¹に達した。水の膜ができる通常の銅表面と比べて5.5倍、一般的な撥水コーティングと比べても50%以上高い数値である。
なぜ画期的なのか
凝縮伝熱の世界では長く、「表面を撥水にして水滴を転がり落とす」という方向で改良が進められてきた。この研究が変えたのは、水滴を落とすことではなく、水滴が生まれる場所をどう用意するかという着眼点である。
そして条件を揃えるために使ったのは、新しい材料でも高価な装置でもない。既存のポリマーを「薄くする」という、パラメータをひとつ動かしただけだ。薄くしたら形態が変わり、形態が変わったら欠陥ができ、その欠陥が核になった。この連鎖に気づけるかどうかが分かれ目だった。
日本のものづくりへの示唆
ここから引き出せる示唆は、材料の話にとどまらない。現場では「バラつき」「ムラ」「欠陥」と呼んで潰しにいく対象がいくつもある。表面の微細な凹凸、めっきの不均一、鋳肌の粗さ。それらは本当に、すべての用途で欠陥なのか。
この研究が示したのは、欠陥かどうかは対象そのものではなく、何をさせたいかで決まるということだ。均一な膜が要る用途では凝集体は不良だが、水を凝縮させたい用途では核生成サイトになる。同じ現象が、目的が変われば機能に変わる。
実用面でも近い。用途として挙げられているのは、発電所や産業用熱交換器、海水淡水化、集水デバイス、そして電子機器の冷却である。熱交換器の伝熱管、コンプレッサの冷却、装置の除湿部など、町工場が関わる範囲にも接点は多い。自社の工程で「取り除くのに手間をかけている不均一」を一度書き出し、それを歓迎する用途がないかを考えてみる価値はある。
出典
- Scientists turn tiny “defects” into a 5.5x heat transfer boost(ScienceDaily 2026年8月23日)
- Nanoscale surface defects boost condensation heat transfer 5.5-fold(Nanowerk)
- 原論文:Nature Communications(2026年7月16日、DOI: 10.1038/s41467-026-75621-5)
原文は英語です。要旨を日本語で紹介しました。