高価なリチウムではなく、ありふれた鉄で長時間ためる
米国のフォーム・エナジー(Form Energy)社が、鉄と空気を使う「鉄空気電池(アイアンエア電池)」の商用生産を本格化させている。ウェストバージニア州ウィアトンの工場で量産が始まり、電力会社向けに、100時間にわたって電気をためられる送電網用の大型蓄電池が実際に導入され始めた。
何が画期的か
この電池の原理は、鉄がゆっくり「錆びる(酸化する)」ときに電気を取り出し、充電時にはその錆を元の鉄に「戻す」というものだ。放電=錆びる、充電=錆を戻す、を繰り返す。材料が鉄・水・空気と、どこにでもある安価なものである点が最大の強みである。フォーム社は、主流のリチウムイオン電池を大きく下回るコスト水準を目標に掲げる。弱点は重くエネルギー密度が低いことだが、動かさず据え置く送電網用途なら重さは問題になりにくく、「安く・長く・大量に」ためる用途に向く。
リチウム一辺倒への対案
蓄電池といえば高性能なリチウムイオンが主流だが、希少金属の調達や価格変動という課題を抱える。鉄空気電池は「性能で勝つ」のではなく、「ありふれた材料で、必要な用途に十分な性能を、圧倒的な安さで実現する」という別の土俵を選んだ。用途を絞れば、平凡な素材が主役になれることを示している。
日本のものづくりへの示唆
最高スペックを競うより、「その用途に本当に必要な性能は何か」を見極め、安価で入手しやすい材料に置き換える——これは町工場のコスト設計にも通じる発想だ。高機能材料の代替、枯れた技術の再評価、据え置き前提での割り切り。制約を逆手に取った設計が、新しい市場を生むことを教えてくれる。手元にある「ありふれた素材」を、もう一度見直す価値はある。
出典
- Why Iron-Air Batteries Could be a Manufacturing Game-Changer(Manufacturing Digital)
- Battery Technology(Form Energy 公式サイト)
原文は英語です。要旨を日本語でわかりやすく紹介しました。