鉄スクラップに混ざる銅やスズは、これまで鋳物づくりの「やっかい者」だった。ドイツのマックス・プランク持続可能材料研究所(MPI SusMat)と中国の上海交通大学などの研究チームは、その不純物を取り除くのではなく、合金の成分として積極的に使いこなす設計手法を開発した。成果は2026年10月14日に米科学誌Science Advancesに掲載された。
何が発明されたのか
対象は、クランクシャフトや風力発電機のハブ、水道管などに使われる球状黒鉛鋳鉄(ダクタイル鋳鉄)だ。研究チームは機械学習(AI)を使い、スクラップ由来の銅・スズ・クロム・ニッケルといった元素を含んだままの成分と、処理温度・処理時間などの条件の組み合わせを探索した。
仕組みはこうだ。まず既存の合金レシピを出発点に、探索アルゴリズムが成分や処理条件を一定の範囲で変えた候補を大量につくる。ニューラルネットワークが各候補の引張強さと伸びを予測し、有望な方向へ探索を絞り込む。さらに別のモデルでふるいにかけ、上位のレシピだけを実際に鋳造して引張試験を行う。その結果をデータに戻し、次の予測の精度を上げていく。
AIが提案した17のレシピをすべてスクラップだけで鋳造したところ、14種類が新合金として成功した。従来の鋳鉄と比べて、同程度の伸びで引張強さが最大15.2%向上、または同程度の強さで伸び(破断までにどれだけ伸びるか)が最大73.2%向上した。生産コストは、スクラップに新しい鉄を混ぜて不純物を薄める従来の方法より8.1%低いという。
なぜ画期的なのか
これまでの常識は「不純物は薄める」だった。責任著者の一人、Liuliu Han氏は、スクラップの不純物に対する従来のやり方は新しい材料を加えて薄めることだったと説明している。新しい鉄を足せばコストもCO2排出も増える。今回の発想は、不純物を「邪魔者」ではなく「使える合金元素」と見直した点にある。
その転換を可能にしたのは、組み合わせの数が多すぎて人の勘と試行錯誤では探しきれなかった領域を、AIの予測と少数の実鋳造・試験を往復させることで効率よく探せるようになったことだ。なお、8.1%のコスト削減は実際の量産ではまだ確認されていない。
日本のものづくりへの示唆
鋳物工場にとって、スクラップの成分ばらつきは品質(Q)管理の悩みの種であり、新しい銑鉄の購入はコスト(C)を押し上げる。今回の研究は、「受け入れ材料の不純物を、規格外として排除するのではなく、レシピ側で吸収する」という考え方を示した。
すぐに同じAIを導入できなくても、過去の溶解記録・成分分析・引張試験の結果をきちんとデータとして残しておくことは、将来こうした手法を使うための土台になる。職人の経験とデータを組み合わせて「混ざりもの」を価値に変える発想は、リサイクル材の活用が進む日本の素形材産業にとって大きなヒントになるだろう。
出典
- Smart method turns metal scrap into alloys with 73% stretchability(Interesting Engineering・2026年10月16日)
- Nur Schrott, kein frisches Metall: KI macht Eisen bis zu 15 % fester(ingenieur.de・2026年10月19日)
原文は英語およびドイツ語。要旨を日本語で紹介しました。