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道具・発明の歴史

【道具・発明の歴史 #54】上下水道——便利な便器が、都市の水を汚した

十九世紀のロンドンで、コレラの流行を悪化させた道具のひとつは水洗便所だった、と言われる。不潔を流し去るための設備が、である。この逆説は、道具と環境の関係をこれ以上ないほどはっきり示している。

汚物だめの上に、水を流し込む

水洗便所が普及する前の都市には、家ごとに汚物だめがあった。溜まったものは業者が汲み取り、周辺の農村へ肥料として売る。臭いが、これは一応閉じた輪だった。汲み取りの量には限りがあり、扱うのは水気の少ない固形物である。

そこへ水洗便所が入ると、条件が変わる。同じ量の汚物が、何倍もの水といっしょに流れ込む。汚物だめはあふれ、地下へ浸みて井戸へ届く。あるいは家主が、本来は雨水を流すために作られていた既存の下水路へ勝手につないでしまう。その先はテムズ川であり、その川の水を汲んで市民に売っている水道会社があった。

器具そのものは優秀だった。足りなかったのは、その器具が出すものを受け取る側の設備である。便器を売る者はいても、川の下流まで責任を持つ者はいなかった。

間違った理屈で、正しい工事をする

一八五四年、医師のジョン・スノウが、ロンドンのある地区でコレラの死者の住所を地図に落とし、一つの共同ポンプの周りに集中していることを示した。井戸の水を疑うこの見方は、当時としてはむしろ少数派である。主流は、悪い空気が病を運ぶという瘴気説だった。

事態を動かしたのは、結局その悪臭のほうだった。一八五八年の夏、テムズ川の臭気が耐えがたい水準に達し、川沿いに建つ議事堂の窓を閉めても防げなくなる。大悪臭と呼ばれるこの事件のあと、議会は驚くほど短期間で下水道の予算を通した。

設計を担ったジョゼフ・バザルジェットの工事は、川へ直接落ちていた無数の排水を、川と並行して走る太い幹線で横から受け止め、市街のはるか下流まで運んでから放流する、というものだった。低いところはポンプ場で汲み上げて勾配をつくる。彼が悪い空気を除くつもりで作った設備は、結果として飲み水と汚水を切り離し、コレラを止めた。理屈が間違っていても、汚水を人から遠ざけるという工事の中身は正しかった。

将来の人口を見込んで管の径に大きな余裕を取ったとも伝えられる。実際、この幹線はその後百年以上ロンドンを支えることになった。

運ぶ問題と、きれいにする問題は別

汚れた水を出す側が片づいても、入ってくる水がきれいでなければ意味がない。十九世紀前半のロンドンの水道会社は、砂の層にゆっくり水を通す緩速砂ろ過を導入している。濁りとともに、当時は正体の分からなかったものまで取り除く方法だった。二十世紀の初めには、アメリカで水道水に塩素を連続的に加える方式が実用化される。管の末端まで効果が残る消毒は、ここではじめて手に入った。

上水道は「運ぶ」問題と「きれいにする」問題の両方を解かなければ完成しない。管だけあっても汚れた水が届くだけで、処理だけあっても家には届かない。そして両方を成り立たせるために、第13回の蒸気ポンプ、第47回のセメント、第49回以降に安くなった鉄の管、それに第53回の舗装道路——正確には、その下を掘る権利と工事の段取り——が必要だった。

見えないものに、誰が払うか

技術以上に難しかったのは費用である。私営の水道会社は、採算の合う地区にしか管を引かない。もっとも水を必要としているのは、もっとも払えない地区だった。上下水道が都市全体に行き渡るのは、事業が公営化され、税と水道料金という形で、使う人も使わない人もまとめて負担する仕組みができてからである。

発明は、事情・環境・他の道具が揃って初めて意味を持つ。水洗便所は、下水道のない都市では公害の発生源であり、下水道のある都市では衛生設備になる。同じ器具が、外側の条件によって正反対の働きをした。二十世紀に乳幼児の死亡率が大きく下がった要因として、薬よりも水道と下水道の寄与が大きかったとする見方は広く共有されている。

蛇口も便器も、要するに端末にすぎない。人の目に触れ、カタログに載り、値段がつくのはその端末のほうだが、性能を決めているのは地面の下にある管と、下流の処理場と、毎月の料金の仕組みである。見える部品の性能は、見えない設備の等級を超えられない。

次回は「#55 麻酔と消毒——痛みが消えたら、手術で死ぬ人が増えた」を予定している。 都市の水をきれいにした発想が、体の中へ向かう話になる。

出典・参考文献

Steven Johnson『The Ghost Map: The Story of London's Most Terrifying Epidemic』Riverhead Books, 2006

Stephen Halliday『The Great Stink of London: Sir Joseph Bazalgette and the Cleansing of the Victorian Metropolis』Sutton Publishing, 1999

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