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道具・発明の歴史

【道具・発明の歴史 #52】ゴムと加硫——夏に溶けて、冬に割れる材料

一八三〇年代のアメリカで、ゴム製品の会社が次々と潰れた。製品が売れなかったからではない。売れすぎたあとで、夏が来たからである。ゴム引きの外套も長靴も、気温が上がるとべたついて形を失い、悪臭を放った。冬になれば逆に硬く縮こまり、割れた。返品の山を抱えて工場は消え、投資家は逃げ、ゴムという言葉は詐欺と同義になった。

材料そのものは新しくない。中南米の先住民は何百年も前からゴムノキの樹液を固め、ボールにし、布に塗って雨を防いでいた。ヨーロッパにも十八世紀には届いており、鉛筆の字を擦り消せることから英語で「こするもの」と呼ばれた。素材はあった。足りなかったのは、気温に左右されずに使える状態だった。

防水布という、惜しい成功

十九世紀のはじめ、スコットランドのチャールズ・マッキントッシュが、コールタールから採れる溶剤にゴムを溶かし、布二枚のあいだに挟む方法を考えた。ゴムを表に出さずに防水性だけを使う工夫である。この防水外套は彼の名で呼ばれ、いまも残っている。

だが、それでも夏と冬の問題は消えなかった。ゴムは温度が上がれば流れ、下がれば硬くなる。用途を防水布に限れば我慢もできたが、機械の部品として使うには話にならない。回転するものに掛けるベルト、圧力のかかるホース、隙間をふさぐ詰め物——どれも、夏と冬で性質が変わる材料では成り立たない。

硫黄と、熱いストーブ

この壁を破ったのが、アメリカのチャールズ・グッドイヤーである。金物商として失敗し、借金で投獄されながら、彼は何年もゴムに薬品を混ぜ続けた。硝酸、マグネシア、石灰。うまくいったように見えてもしばらくすると元に戻る。

一八三九年、硫黄を混ぜたゴムの塊を熱いストーブの上に落としてしまった、と伝えられる。焦げて溶けるはずのそれが、焦げずに弾力を保っていた。この現象が加硫——のちにローマ神話の火の神の名からヴァルカナイゼーションと呼ばれる処理——の出発点になった。

加硫されたゴムは、熱しても流れず、冷やしても硬くなりきらない。伸ばせば戻り、切れにくい。仕組みが分かるのはずっとあとのことで、硫黄がゴムの長い分子どうしを橋のようにつなぎ、鎖が互いに滑って流れ去るのを止めている、と説明できるようになるのは二十世紀のポリマー化学を待つ。第22回で見たとおり、理屈が分かる前に、経験則としての材料が先に商品になるのは珍しいことではない。

グッドイヤー本人の人生は報われなかった。イギリスではトマス・ハンコックが先に特許を取り、彼はその国で権利を得られない。生涯を訴訟と借金に費やし、貧しいまま世を去っている。のちに彼の名を冠した大手タイヤ会社が生まれるが、創業は死後で、遺族とは関係がない。

使い道が、あとから追いついた

加硫ができた時点で、ゴムはようやく機械の材料になった。ところが当初の最大の用途は、靴と防水布と、工場の伝動ベルトや電線の被覆といった地味なものだった。ゴムが桁違いに必要とされるのは、もう少しあとである。

第36回で見た安全型自転車に空気入りタイヤが載り、第21回の自動車が道路を走りはじめて、はじめて需要が爆発する。加硫という処理は一八三九年からあったのに、それが世界の経済を動かす規模になるには、乗り物の側の条件が揃うまで五十年ほどかかった。発明は、事情・環境・他の道具が揃って初めて意味を持つ。

需要が爆発したとき、供給の側で起きたことは重い。ゴムノキはブラジルの独占だった。十九世紀後半にイギリスが種子を持ち出し、東南アジアの植民地でプランテーションとして栽培する体制を作る。二十世紀に入るとアジア産が市場を制し、アマゾンの好景気は終わった。採取の現場で先住民や労働者に過酷な扱いが加えられたことは、各地で記録されている。第15回の海底ケーブルとグッタペルチャで見た構造と同じで、工業の新しい材料が、遠い土地の植生と労働に丸ごと依存する。

第二次世界大戦で東南アジアからの供給が断たれると、アメリカとドイツは国家事業として合成ゴムの量産に踏み切る。石油から作る材料が天然の樹液を置き換えていく流れは、ここから始まった。

ものづくりの側から見れば、この話の要点は加硫の化学ではない。ゴムは加硫によって性能が上がったのではなく、使える範囲が安定したという点にある。夏にも冬にも同じ顔をしていること。それだけで、素材は部品になる。最高値がいくつかより、条件が変わっても同じであることのほうが、機械にとっては価値が高い。

次回は「#53 舗装道路——タイヤができても、走る道がなかった」を予定している。 空気入りタイヤを載せた乗り物が本当に走れるようになるまでに、足元の側で何が必要だったかという話になる。

出典・参考文献

Charles Slack『Noble Obsession: Charles Goodyear, Thomas Hancock, and the Race to Unlock the Greatest Secret of the Nineteenth-Century』Hyperion, 2002

John Loadman『Tears of the Tree: The Story of Rubber—A Modern Marvel』Oxford University Press, 2005

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