ドイツのシュトゥットガルト大学は2026年9月、木材を主体とした床スラブ(床版)「UniversalTimberSlab(ユニバーサル・ティンバー・スラブ)」が実物大の載荷試験に合格したと発表した。厚さはわずか36cm。鉄筋コンクリートの床と同じくらい薄いのに、鉄筋コンクリートの使用量は約3分の2少ないという。
何が作られたのか
研究を率いたのは、同大学の計算デザイン研究所(ICD)のアヒム・メンゲス所長と、建築構造・構造設計研究所(ITKE)のヤン・クニッペルス所長らのチームだ。試験体は全体で9m×5m、柱で支える間隔(スパン)は縦横8m×4m。これに20トンの荷重(自重とは別)を載せたところ、最大たわみは12mm、固有振動数は8Hz超で、多層建築の床に求められるたわみと振動の基準を満たした。試験は2026年6月、ドイツ・レムシャイトで開かれたイベントで公開された。
床は、真っすぐなラミナ(板材)を貼り合わせた集成材のセグメントを工場で組み、木材とコンクリートを組み合わせた複合構造としている。ポイントは、木の繊維の向きを「力が流れる方向」に沿わせて配置していることだ。その配置をAIを使ったデジタル設計ツールで最適化し、特許出願中の分割(セグメント化)方法で、工場でつくれる大きさに切り分けている。
なぜ画期的なのか
木造の床で広い面積を支えようとすると、従来は太く背の高い梁を縦横に渡す必要があった。梁の分だけ天井が下がり、階高が高くなり、結局は建物全体が大きくなる。記事によれば、このスラブは従来の柱梁式の木造床に比べて、構造の高さを30〜70cm低くできる。
環境面の意味も大きい。鉄筋コンクリートの床スラブは、建物の建設にともなうCO2排出(エンボディド・カーボン)の約40%を占めるとされる。床を木主体に置き換えられれば、その削減効果は大きい。
そして研究チームが強調するのは、特別な新設備を必要としない点だ。発表では、このシステムは木造建築業界がすでに持つ製造ノウハウの上に成り立つ、と説明している。材料そのものは新しくない。変えたのは「繊維をどう並べるか」と「どこで切り分けるか」という設計の部分である。
今後は、ドイツ南部オーバーコッヘンに計画されている3階建て・延床1,400平方メートルの建物「Zukunftsforum」で、初の実用化が予定されている。
日本のものづくりへのヒント
- 材料を変えずに「向き」を変える:木は繊維方向に強く、直交方向に弱い。その弱点を嫌うのではなく、力の流れに合わせて並べることで、鉄筋コンクリート並みの薄さを実現した。金属の圧延方向や樹脂の繊維配向など、異方性を持つ材料を扱う現場には同じ発想が使える。
- 設計はデジタル、製造は既存設備:AIで最適化した複雑な形も、工場で扱える大きさのセグメントに分ければ、既存の集成材ラインで作れる。高度な設計と手慣れた製造を「分割の仕方」でつなぐ考え方は、中小の加工業にとっても参入の余地を生む。
- 国産材の出口として:日本は森林資源が豊富で、中大規模木造の推進も進む。梁のいらない薄い木の床は、集成材メーカーやプレカット工場にとって新しい製品領域になり得る。
出典
原文は英語。要旨を日本語で紹介しました。