倒産した蔵に残された、買い手のつかないウイスキー原酒400樽。処分費を払って捨てられる寸前だったその液体が、いまや海外オークションで1本1000万円を超える値をつける——PRESIDENT Onlineが、埼玉県秩父市のベンチャーウイスキー・肥土伊知郎(あくと・いちろう)社長の歩みを伝えている。
何が起きたのか
- 肥土氏は埼玉の酒造家系の生まれ。生家の東亜酒造は1946年にウイスキー製造免許を取得した老舗だったが、経営不振により2000年に民事再生法の適用を受けた
- 蔵には約20年分のウイスキー原酒400樽が残されたが、引き取り手がなく廃棄寸前に。元サントリー社員でもあった肥土氏は、この「父の代の原酒」を守るために奔走する
- 2004年、自らベンチャーウイスキーを設立。トランプカードをラベルにした「イチローズモルト カードシリーズ」として売り出し、2006年には英『Whisky Magazine』のゴールドアワードを獲得
- 2017年には「World Whiskies Awards」で世界最高賞を受賞。初期ボトルは海外オークションで1本1000万円超、シリーズ一式では1億円近い落札例も報じられている。現在は秩父蒸溜所を構え、従業員約50人の世界的ブランドに成長した
ものづくりの視点から
この話の核心は、「原酒の中身」は倒産の日から一滴も変わっていない、という点にある。変わったのは価値の伝え方だ。
- 在庫は負債にも資産にもなる。 帳簿上は処分費のかかる不良在庫でも、時間が価値を熟成させる商品がある。自社の「売れ残り」に、まだ語られていない物語がないか
- 作り手の物語は、品質と同じくらい強い。 「倒産した蔵の、父の代の原酒」という文脈そのものが、世界の愛好家にとっての希少価値になった
- 小さいことは武器になる。 大手の量産では持てない「一樽ごとの個性」を前面に出したことが、従業員50人の蒸溜所が世界最高賞を獲る道になった
廃棄寸前の樽に価値を見出した目と、それを10年以上かけて世界に伝え切った執念。「発明」だけがイノベーションではないことを教えてくれる、ものづくり経営の教科書のような逆転劇だ。
出典
- [父が作った「売れないウイスキー」に1本1000万円超の値が…倒産した酒蔵に残された「廃棄寸前400樽」の逆転劇(PRESIDENT Online・前編)](https://president.jp/articles/-/116092)
- [「山崎25年」を差し置き最高得点…従業員50人、埼玉の小さな蒸留所が「1億円ウイスキー」を生んだ理由(PRESIDENT Online・後編)](https://president.jp/articles/-/116097)