組み合わせが1億通りある。全部試すのは不可能だ——そういう場面で、人は勘に頼るか、諦めて既存条件を使い回すかのどちらかになる。ワシントン州立大学(WSU)の研究チームが示したのは、その第三の道である。1億通りのうち、次に試す40回だけをAIに選ばせた。
何が起きたか
対象はGRCop-42という銅・クロム・ニオブ系の合金だ。NASAが開発した材料で、ロケットエンジンの燃焼室のように極端な熱にさらされる部品に使われる。ところがこの合金は金属3Dプリンタでの造形が難しく、記事によれば現在市販されているプリンタの約9割はこの合金を印刷できない。銅系の合金はレーザー光を反射しやすく、高い出力と精密な条件出しを要求するためである。
WSUの電気工学・コンピュータ科学部門と機械・材料工学部門の合同チーム(Jana Doppa教授が主導、筆頭著者は計算機科学博士課程のAzza Fadhel氏、ミネソタ大学のAryan Deshwal氏が協力)は、レーザー出力・走査速度などのパラメータの組み合わせ1億通り超に対し、AIに「まだ試していないが成功しそうな条件」を推定させた。そのうえで、成功確率の高い組み合わせと、あえて未知の領域を探る組み合わせを混ぜて次の実験対象を選ぶ——適応的実験計画と呼ばれる進め方である。
結果、わずか40回の実験で6つの成功条件が見つかった。しかもその中には、500Wという記録的な低出力での造形が含まれていた。成果はAAAI人工知能会議の論文集(2026年、第40巻47号)に掲載され、革新的応用部門の賞も受賞している。
なぜ画期的か
速く見つけたことではない。「高出力の専用機がなければ扱えない材料」を「普通の機械で扱える材料」に引き下げたことが効いている。500Wで通るなら、大学の研究室や、専用設備を持たない中小企業の手元にある機械でも射程に入る。材料の性能を上げたのではなく、材料に到達できる人の数を増やしたわけだ。
日本のものづくりへの示唆
町工場にとって、この話の本題は3Dプリンタではない。条件出しである。新しい材料、新しい刃物、新しい溶接ワイヤ。導入のたびに「とりあえず推奨条件で回してみて、ダメなら少しずつ振る」を繰り返し、そこで何日も溶かす。この手順は、1億通りの中を勘で歩いているのと変わらない。
示唆は3つある。第一に、材料メーカーの推奨条件は多くの場合ハイエンド機を前提としている。手持ちの設備で通る条件を自力で探すこと自体に、独自の価値がある。第二に、この研究が使ったのは40回分のデータである。ビッグデータがなければ始められない話ではない。試作の記録を捨てずに残しておくだけで、次の1回の選び方は変わる。第三に、AIの役割は「答えを出すこと」ではなく「次に試す1回を選ぶこと」だった。全自動化を待つ必要はなく、条件出しの当たりを付ける相棒としてなら、今の道具でも十分に使える。
出典
- AI searched 100 million possibilities and found a cheaper way to 3D-print a NASA rocket alloy|ScienceDaily(2026年8月27日)
- AI finds six ways to print rocket-grade alloy on commercial 3D printers|Phys.org
※原文は英語。要旨を日本語で紹介しました。