不良の原因になる材料がある。ならば性能を上げて封じ込めるか、そもそも工程から追い出すか。島津製作所・大阪大学接合科学研究所・DOWAパワーデバイスの共同研究が選んだのは後者だった。銀を使うのをやめる。そのために、接合ではなく積層でつくることにした。
何が実用化されたか
2026年8月25日、島津製作所は、マルチビーム積層造形法による銅-窒化アルミニウム(Cu-AlN)基板の実用化に成功したと発表した。大阪大学接合科学研究所の塚本雅裕教授、およびDOWAホールディングス傘下のDOWAパワーデバイスとの共同研究で、2022年11月に始まった取り組みである。
やっていることはシンプルだ。窒化アルミニウム(AlN)の基板に対し、銅の粉末と青色半導体レーザーを同時に射出し、銅の電極を直接コーティングする。青色半導体レーザーを用いたこの製造技術は世界初とされる。
従来はどうしていたか。活性金属ろう付け法という工程で、銀を含むろう材を挟んで銅とAlNを接合していた。この銀が曲者で、電圧と湿度の条件下で銀が移動して絶縁不良を起こす「銀マイグレーション」の原因になる。新手法はろう材そのものを使わないため、銀が工程に存在しない。
結果として、従来技術による基板と比べてヒートサイクル耐久性が3倍以上に向上し、低残留応力での接合も実現した。パワー半導体デバイスのほか、光通信、通信衛星、AIサーバー、医療用レーザーなど幅広い分野での採用が期待されている。
なぜこの条件で成立したか
銅は赤外レーザーの吸収率が低く、従来のレーザー加工では反射してしまって扱いにくい材料だった。青色半導体レーザーは銅への吸収率が高く、だから銅粉末を狙って溶かせる。光源を替えたことが、工法そのものを成立させている。材料の工夫でも、装置の高出力化でもなく、光の波長の選択が突破口になった構図だ。
日本のものづくりへの示唆
示唆は2つある。ひとつは、「不良を減らす」ではなく「不良の原因を工程から消す」という発想の向きである。銀マイグレーションは長年、実装条件やコーティングで抑え込む対象だった。それを、原因物質を使わない工法に置き換えることで根本から外した。自社の不良表を見て、上位の項目が「抑え込む努力」で年々戦われているなら、その工程は置き換えの候補かもしれない。
もうひとつは、接合から積層への移行だ。ろう材や接着剤といった中間材は、それ自体が異物であり、熱膨張差の発生源であり、在庫であり、管理項目でもある。積層でつくれば中間材は要らない。金属3Dプリンタを「複雑形状をつくる機械」としてだけ見ていると、この用途は視野に入らない。平らな面に材料を直接置く道具として見直すと、めっき・ろう付け・溶射の代替という別の使い道が見えてくる。